フェイスブック創始者マークザッカーバーグと妻の寄付5.5兆円は節税目的?

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フェイスブック

作成日:2015年12月9日 更新日:2016年2月29日

2015年12月1日(米国時間)に、フェイスブックの創始者・創業者でありCEOのマーク・ザッカーバーグ氏が妻のプリシラ・チャン氏とともに、娘の誕生をきっかけに自分が保有するフェイスブック株の99%=450億ドル(5.5兆円相当)を段階的に寄付していく事を発表しました。

しかし、単なる節税目的なのでは?という憶測も生まれ、インターネットを中心にこの出来事は美談なのか節税目的なのかといった議論になっています。一連の出来事をまとめました。

感動的!フェイスブック創始者・創業者マークザッカーバーグの「娘へのメッセージ」

この出来事は2015年12月1日(米国時間)に、フェイスブック創始者・創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏が妻のプリシラ・チャン氏とともに、自分が保有するフェイスブック株の99%=450億ドル(5.5兆円相当)を寄付することを、フェイスブック上で発表したことから始まります。

この発表は、マーク・ザッカーバーグ氏が妻のプリシラ・チャン氏との第一子として誕生した娘への手紙(「A letter to our daughter」と題した娘へのメッセージ)という形で発表され、具体的には、LLC「チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ」を設立し、この会社を通じて教育や医療、ネットの普及などの分野で慈善活動を支援するとのことです。
※LLCとは、limited liability companyの略です。事業体には課税されず(法人税がかからない)、会社の持分の所有者(member)対してのみ課税される(所得税のみかかる)形態の事業体のことを言います。

インターネットを中心に大きな話題になり、当初は「億万長者になっても全財産のほとんどを寄付するなんて偉い!」とか「私利私欲のために起業してビジネスを大きくした訳ではないんだな」とか「子供を持つ親としてとても共感した!」など、美談として扱われていました。

発端となったメッセージを一部抜粋してご紹介します(日本語訳はみんなの教科書)。原文はリンク先を参照ください。

A letter to our daughter

Dear Max,
Your mother and I don’t yet have the words to describe the hope you give us for the future. Your new life is full of promise, and we hope you will be happy and healthy so you can explore it fully. You’ve already given us a reason to reflect on the world we hope you live in.
Like all parents, we want you to grow up in a world better than ours today.

娘への手紙

愛するマックス、
あなたはママと私にどれだけ希望をくれたでしょう!あなたの新しい人生は希望に満ちています。あなたが好きなだけ人生を探求できるように、幸せで健康であることを祈っています。私たちは、あなたが生きて欲しい世界を実現しなければなりません。
他のすべての親のように、私たちは、あなたが今より良い世界で成長して欲しいと願っているのです。

(中略)

Today, most people die from five things — heart disease, cancer, stroke, neurodegenerative and infectious diseases — and we can make faster progress on these and other problems.

現在、ほとんどの人達は、心臓病、がん、脳卒中、神経変性および感染症の5つを原因とし死亡しています。私たちはこれらの問題にできるだけ早く進歩して対応することができます。

(中略)

There are so many opportunities just like this. If society focuses more of its energy on these great challenges, we will leave your generation a much better world.
Our hopes for your generation focus on two ideas: advancing human potential and promoting equality.

病気のような解決すべき課題は世の中に沢山あります。もし社会が、これらの大きな課題にチャレンジすることができれば、私たちはあなたの世代により良い世界を残すことができます。
私たちの希望は、あなたの世代が2つの問題解決に集中することです。それは、人間の可能性を高めることと、平等な世界を促進することです。

(中略)

This mission — advancing human potential and promoting equality — will require a new approach for all working towards these goals.
We must make long term investments over 25, 50 or even 100 years. The greatest challenges require very long time horizons and cannot be solved by short term thinking.

このミッション、すなわち「人間の可能性を高めることと、平等な世界を促進すること」は、問題解決のために新たなアプローチが必要になります。
私たちは、25年、50年、あるいは100年さえ超えるような長期的な投資を行う必要があります。この困難な問題解決は、とても長い目で見る必要があり、短期的な思考では解決できません。

(中略)

Your generation will set goals for what you want to become — like an engineer, health worker, writer or community leader. You’ll have technology that understands how you learn best and where you need to focus. You’ll advance quickly in subjects that interest you most, and get as much help as you need in your most challenging areas. You’ll explore topics that aren’t even offered in schools today. Your teachers will also have better tools and data to help you achieve your goals.

あなたの世代は、あなたがなりたいと願うものをゴールにすることができます。例えばエンジニア、医療従事者、作家やコミュニティのリーダーといった具合に。あなたは、あなたがどのように学んだらいいのか、何に集中したらいいのかを理解することができるでしょう。
あなたは、たとえ困難な分野であっても、あなたが必要なだけの助けを得て早いスピードで進歩することができます。学校で提供されてないトピックでも学び探求することができます。あなたの先生もまた、あなたの目標達成を助けるためのより良いツールとデータを持てるようになるでしょう。

(中略)

The internet is so important that for every 10 people who gain internet access, about one person is lifted out of poverty and about one new job is created.
Yet still more than half of the world’s population — more than 4 billion people — don’t have access to the internet.
If our generation connects them, we can lift hundreds of millions of people out of poverty. We can also help hundreds of millions of children get an education and save millions of lives by helping people avoid disease.

インターネットは、インターネットに10人の人がアクセスできるようになる度に、1人の人が貧困から抜け出し1つの新しい仕事が作られるほど重要なものです。
しかし、まだ世界の人口の半分、40億人以上の人々がインターネットにアクセスできていません。
もし私たちの世代が、彼らをインターネットにアクセスできるようにできれば、何億人もの人々を貧困から脱出させることができます。さらに私たちはまた、教育と数百万人の命を救うことができる病気に対する支援により、何億人もの子どもたちを助けることができます。

(中略)

As you begin the next generation of the Chan Zuckerberg family, we also begin the Chan Zuckerberg Initiative to join people across the world to advance human potential and promote equality for all children in the next generation. Our initial areas of focus will be personalized learning, curing disease, connecting people and building strong communities.
We will give 99% of our Facebook shares — currently about $45 billion — during our lives to advance this mission. We know this is a small contribution compared to all the resources and talents of those already working on these issues. But we want to do what we can, working alongside many others.
We’ll share more details in the coming months once we settle into our new family rhythm and return from our maternity and paternity leaves. We understand you’ll have many questions about why and how we’re doing this.
As we become parents and enter this next chapter of our lives, we want to share our deep appreciation for everyone who makes this possible.

あなたがチャン・ザッカーバーグファミリーの新しい世代になるように、我々もまた、次の世代の全ての子どもたちのために「人間の可能性を高めることと、平等な世界を促進すること」に世界中から人々が参加するチャン・ザッカーバーグ・イニシアティブを始めます。
私たちが最初に狙う領域は、個人別の教育、病気の治療、人々を繋ぎ強い関係を作ることです。
私たちはこのミッションを推進するために、Facebookの株式の99%-現在は約45億ドルの価値です-を、私たちが生きている間に寄付していきます。これらの解決すべき課題にすでに取り組んでいる人々の資源と才能に比べ、この寄付は小さい貢献に過ぎません。しかし私たちは、私たちにできること、すなわち他の沢山の人達と一緒に取り組んでいきたいのです。

We’ll share more details in the coming months once we settle into our new family rhythm and return from our maternity and paternity leaves. We understand you’ll have many questions about why and how we’re doing this.
As we become parents and enter this next chapter of our lives, we want to share our deep appreciation for everyone who makes this possible.

私たちは、新しい家族のリズムをつくり産後休暇から戻ったら、今後数ヶ月でもっと詳しい情報を多くの人と共有します。私たちがなぜ、そしてどのようにこれらを実行するかについて、皆さんは多くの疑問を持つでしょう。
私たちは親になり人生の新しいステージに入ります。これを可能にしてくれた全ての人に感謝の意を表したいと思っています。

(中略)

Max, we love you and feel a great responsibility to leave the world a better place for you and all children. We wish you a life filled with the same love, hope and joy you give us. We can’t wait to see what you bring to this world.

Love,
Mom and Dad

マックス、私たちはあなたを愛しています。あなたと全ての子どもたちに、世界をよりよい場所として残すことが、私たちの大きな責任です。あなたが私たちにしてくれたように、あなたも同じ様に、愛、希望、そして喜びで満たされた人生を過ごすことを望んでいます。私たちはあなたが世界にもたらすものを待ちわびています。

愛とともに
ママとパパより

Mark Zuckerberg,Facebook 「A letter to our daughter」より https://www.facebook.com/notes/mark-zuckerberg/a-letter-to-our-daughter/10153375081581634
※日本語訳はみんなの教科書

ザッカーバーグ氏はチャン・ザッカーバーク・イニシアティブにより、「人間の可能性を高めることと、平等な世界を促進すること」という課題を長期的に解決することを目指すということです。

美談?それとも節税目的?マークザッカーバーグと妻の寄付への世間の反応

フェイスブック創始者・創業者マークザッカーバーグ氏と妻プリシラ・チャン氏の寄付の発表と、娘へのメッセージを見た世間の反応は賛否両論ですが、多くは好意的に捉えられています。

ポジティブな反応

フェイスブックの創業者であるマーク ザッカーバーグ氏が氏の持つ同社の株式の99%を慈善事業に使うと公表しました。その額450億ドル、円換算で5兆4000億円にも上ります。
高く称賛したいと思います。
ちょうどこの時期は各方面の寄付集めがピークを迎える時です。様々なNPOが様々な目的意識をもって慈善活動をするのは北米の風物詩であります。私も一定のことは毎年させて頂いております。
私が日本に住んでいた時は寄付という言葉は何か遠い話のように思っておりました。せいぜい、歳末助け合い運動ぐらいだったと思いますが、今でもやっているのでしょうか?

(中略)

寄付の習慣が特に北米で強く根付いているのは宗教の博愛精神が背景にあることは否定できないでしょう。特にクリスマスを含むホリディシーズンは全ての人が暖かく、幸せに過ごせるように、という気持ち、そして今までの幸せに感謝し、その一部を恵まれない人とシェアする発想であります。また、歴代大統領をはじめ、政財界のリーダーたちが率先して多額の寄付、ないし、社会貢献をし続けてきたことはリーダーとして当然の振る舞いであり、高い尊厳につながっていくと見られています。逆説的に言えば寄付や社会貢献をする心を持ち合わせなければリーダーになれないともいえそうです。

『外から見る日本、見られる日本人』「北米らしいザッカーバーグ氏の巨額寄付」より http://blog.livedoor.jp/fromvancouver/archives/52445825.html

ネガティブな反応

元フジテレビアナウンサーの長谷川豊氏はブログで、テレビ番組における苫米地英人氏の発言を引き合いに出し「寄付は美談ではなく単なる節税対策だ」としています。

このままでは、生まれたばかりの娘に、大変な税金が発生してしまうが、創業者の株式を税金を納付するためにそこまで一気に売却などできない。しかも、その金額が、2兆円以上ときたもんだ。
そこで、「世界の教育に役立てるため」とか何とか言って「慈善団体」を設立する。そこで、なんの仕事をしなくてもいいので、ザッカーバーグ氏本人や生まれたばかりの娘を…
役員として登録する。
すると、5・5兆円は入ることはないが、5・5兆円の基金の「利子分」は自分たちでお小遣いとして自由に動かすことができるようになるというからくりだ。もし預けた銀行の利息や何らかの運用で2%のゲインがあったと仮定しよう。5・5兆円の2%だ。
1100億円だ。
なんと、生まれたばかりの彼女の手元には、毎年、利息だけで1000億円以上のお金が転がり続けてくるのだ。この利回りが4%だった場合、年間2000億円以上だ。もはや、国でも運営してくれ、の世界である。
単純に「世界の教育のための、子供たちのための団体を作ってそこに寄付します」と言われると惑わされがちになるのだが、これはアメリカでは富豪たちが意外と誰でもやっているレベルの「ただの節税対策」だったりする。

長谷川豊 「本気論 本音論」『Facebook創業者のM・ザッカーバーグ氏の寄付は「いい話」でもなんでもないという現実』より http://blog.livedoor.jp/hasegawa_yutaka/archives/46186499.html

実は、アメリカのメディアでもこうした論調の記事はいくつかありました。

Mark Zuckerberg did not donate $45 billion to charity. You may have heard that, but that was wrong.
Here’s what happened instead: Mr. Zuckerberg created an investment vehicle.

マーク・ザッカーバーグは慈善団体に450億ドルを寄付した訳ではありません。あなたは慈善団体に寄付したと聞いたかもしれませんが、それは間違いです。
慈善団体に寄付した代わりに何が起こったのか:ザッカーバーグ氏は投資会社を作ったのです。

If the L.L.C. donated to a charity, he would get a deduction just like anyone else. That’s a nice little bonus. But the L.L.C. probably won’t do that because it can do better. The savvier move, Professor Fleischer explained, would be to have the L.L.C. donate the appreciated shares to charity, which would generate a deduction at fair market value of the stock without triggering any tax.

もし今後LLCが慈善団体に寄付した場合、ザッカーバーグ氏は、他の人がそれをやった時と同じ程度に税金の控除を受けることができます。ちょっとしたボーナスのようなものですね。しかし、LLCはもっと良いやり方ができるので、彼はおそらくそうしないでしょう。フライシャー教授は、ザッカーバーグ氏はLLCに慈善団体に寄付させることで、どんな税金もかからずに株の市場価値に基づいた控除を受けることができます、と説明しました。

Jesse Eisinger 『THE NEW YORK TIMES』「How Mark Zuckerberg’s Altruism Helps Himself」より http://www.nytimes.com/2015/12/04/business/dealbook/how-mark-zuckerbergs-altruism-helps-himself.html?_r=0
※日本語訳はみんなの教科書

寄付は善意ではなく税金対策だ、という批判が起きた訳です。

マークザッカーバーグ氏の対応

こうした批判に答えるという意味もあったのでしょう、マーク・ザッカーバーグ氏は、12月3日にフェイスブック上で、以下のように発表しました。

By using an LLC instead of a traditional foundation, we receive no tax benefit from transferring our shares to the Chan Zuckerberg Initiative, but we gain flexibility to execute our mission more effectively. In fact, if we transferred our shares to a traditional foundation, then we would have received an immediate tax benefit, but by using an LLC we do not. And just like everyone else, we will pay capital gains taxes when our shares are sold by the LLC.

私達は「チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ」に株を移すにあたり、財団の代わりにLLCを使うことで税の優遇措置を受けることはありません。代わりに、もっと効果的にミッションを実現することができるようになります。もし私達が、株をLLCでなく財団に移していたとしたら、私達はすぐに税の優遇措置を受けるでしょう。私達は他の人達と同じ様に、LLCが株を売却した時にはキャピタルゲイン課税を支払います。

Mark Zuckerberg, Facebookより https://www.facebook.com/zuck?fref=ts
※日本語訳はみんなの教科書

アメリカのメディアも、マーク・ザッカーバーグ氏が「説明に追われた」というような論調で語っています。

The revelation generated a lot of attention, much of it due to the sheer volume of Zuckerberg’s net worth — $45 billion! While many people, including Bill Gates and Michael Bloomberg, praised him for his generosity, others expressed confusion and even questioned his motives for giving his money away.

ザッカーバーグ寄付という行為は、多くが彼の資産の多さそのものの(450億ドル!)事実により多くの注目を集めました。ビル・ゲイツ氏やマイケル・ブルームバーグ氏を含む多くの人々は彼の行為を賞賛しましたが、一方で他の多くの人々は困惑し、彼がお金を寄付した動機に疑念を呈しさえしました。
これらの疑念を晴らすために、ザッカーバーグは、彼と彼の妻プリシラ・チャンがファンドをどのように活用しようと考えているかを明らかにしました。

『techcrunch』Zuckerberg Responds To Critics, Explains How He’s Spending $45B」より http://techcrunch.com/2015/12/03/zuckerberg-responds-to-critics-explains-how-hes-spending-45b/
※日本語訳はみんなの教科書

寄付は節税目的ではなく、他の人と同じ様に税金を払うつもりだと宣言しました。

起業家が実現したいものとは?フェイスブックとマークザッカーバーグ氏の考え

フェイスブックは2012年2月1日に上場申請しましたが、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は米証券取引委員会に提出した上場申請書に株主へ向けた手紙を添付しました。その手紙の中で、はっきりと「金儲けのためにサービスを作っているのではなく、より良いサービスを作るためにお金を稼いでいる」と言っています(原文では、we don’t build services to make money; we make money to build better services.)。

もちろん、言うだけなら誰でも言えることですが「透明性が高くオープンで人々の結びつきの強い世の中をつくりたい」というマーク・ザッカーバーグ氏の強い思いが、今でもフェイスブックの方向性には反映されていると思います。今回の一連の出来事は、やはり単なる税金対策として捉えることよりも、起業して成し遂げたいビジョンやミッションの延長線上にこうした寄付という行為があると捉えるべきではないかと考えています。

もちろん、子供ができたことで教育や次世代の為への投資が必要だと痛感したというような気持ちの変化もあるかもしれません。

いずれにしても私たちは、一連の行為を「お金のためだけ」と考えるのではなく、成功した起業家が資産を使ってさらに何を実現しようとしているのかということを考えることが大切だと思います。

フェイスブックが生まれ成長していくに従ってマーク・ザッカーバーグや他の創業メンバーの考えや関係がどう変わっていったか、フィクションを混じえて語られています。アメリカのスタートアップの雰囲気を知る上で役立ちます。

また、マーク・ザッカーバーグの株主への手紙は、当時日本経済新聞で日本語に訳されていますので引用させて頂きます。

マーク・ザッカーバーグからの手紙

フェイスブックはもともと、会社を作るために始めたサービスではありません。「世界をよりオープン(開かれたもの)にして人びとの結びつきを強める」というソーシャル(社会的)な使命をなし遂げるために、作られたものです。

「このミッションが私たちにとってどういう意味を持っているか」「どのように意思決定をしているか」「なぜ私たちがこのようなやり方をしているか」を当社に投資する皆さんに理解してもらうことが、非常に重要と考えています。この手紙で、私たちのやり方について説明しようと思います。

フェイスブックにおいて、私たちは人びとが情報を共有したり消費したりすることに大変革を起こした技術から刺激を受けています。具体的には、効率的なコミュニケーションを実現して社会を大きく変えた印刷機やテレビなどがこれにあたります。こうした技術は多くの人に発言の機会を提供し、進歩を促し、社会の組織の作られ方を変えました。さらに人と人の間の距離を縮めたのです。

今日、私たちの社会は新たな転換点を迎えています。世界の人びとの過半がインターネットや携帯電話を使えるようになり、こうした素晴らしい道具は、考えていること、感じていること、行っていることに関する情報を誰とでも共有するために不可欠なものとなりました。フェイスブックは情報を共有し、既存の制度や産業を大きく変えるためのサービスを作りたいと考えています。

世界中の人びとをつなぎ、発言の機会を提供し、未来に向かって社会を変えることには、巨大なニーズと機会があります。そのために必要な技術やインフラの規模はこれまでにないものであり、これこそが私たちが注力すべき最も重要な課題と考えています。

■人びとの関係を強固にするために

私たちのミッションは大きいものに聞こえるかもしれませんが、起点は「2人の人の関係」という小さいものです。

個人的な関係は、社会の基礎をなすものです。こうした関係によって、新しい考え方を知ったり、世界について理解を深めたり、究極的には長期的な幸福を得ているのです。

フェイスブックにおいて、私たちは人びとが必要としている人とつながり、必要なことを共有するための道具を作っており、こうした活動を通じて人びとが関係を構築したり維持したりする能力を高めようとしています。

多くを共有する人は――例え親友や家族とだけでも――よりオープンな文化を生み、他人の人生や考え方についてよりよく理解できるはずです。このことにより非常に多くの強いつながりを生み出し、人びとが多様な考え方に触れる機会を作ると信じています。

人びとがこうした関係を構築することを手助けすることにより、情報の共有や消費の方法を書き換えたいと私たちは考えています。世界の情報のインフラは、これまでのように巨大で一体となったトップダウンの構造よりも、ボトムアップもしくは(個人が様々なルートでつながる)ピアツーピアな構造が好ましいはずです。また、人びとが共有する情報を自らコントロールできることが、この「書き換え作業」の基本的な指針であることも申し添えておきます。

私たちはこれまでに、8億人以上の人が、1000億以上のつながりを作る手助けをしてきました。そして私たちのゴールはこの「書き換え」を加速させることです。

■人びとと企業・経済との関係を良好に

オープンで結びつきの強い社会になることで、伝統的な企業がよりよい製品やサービスを作ることが可能になり、経済をより強いものにすることに貢献できると考えています。

より多くを共有することで、製品やサービスを信頼している人びとから多くの情報を得ることができるようになります。このことにより、最良の製品を見つけたり、生活の質や効率を高めたりすることが可能になるのです。

よい製品を見つけやすい仕組みができることで、製品を個人向けに加工したり、使いやすくしたりする企業が報われるようになります。すでにソーシャルな設計をした製品は、伝統的な競合製品よりも利用者をひき付ける力が強いということが分かっています。世界でより多くの製品が同じ方向に向かうことを楽しみにしています。

我々の開発者向けプラットフォームを使うことで、何十万もの企業が高品質でソーシャルな製品を作れるようになりました。既にゲーム、音楽、ニュースなどといった業界で破壊的な新しいアプローチが実現しています。ソーシャルを組み込んだ新たなアプローチを取り入れることで、より多くの産業で同様の出来事が起きるのを期待しています。

いい製品を作ることに加え、開かれた世界の実現によって、企業が顧客とより直接的かつ確実に、関わることを促すことができます。400万以上の企業がフェイスブックにページを持ち、顧客との対話に役立てています。こうした流れが加速することも期待しています。

■政府や社会制度との関係の変革に向けて

人びとが共有する手段を私たちが築くことで、政府による誠実で透明性が高い会話が可能になり、人びとを力づけ、政府高官の説明能力を高め、現在の大きな問題の解決策を提供できると信じています。

共有する力を提供することで、人びとは以前とは比較にならないほどの大きな規模で、自らの声を届けることが可能になっています。こうした声はこれからも増えていき、無視されなくなるはずです。時間がたてば、少数の仲介者を経なくても、政府は国民から直接提起された問題や懸念に、より素早く対応するようになることを期待しています。

こうした過程を経て、あらゆる国でインターネットに肯定的で、国民の権利のために戦う指導者が出てくることを期待しています。ここでいう権利とは、必要とする情報を共有したり、共有したいと思う情報にアクセスする権利を含みます。

この項の最後になりますが、個人に対応した良い品質の製品が増えることにより、雇用創出や教育やヘルスケアといった私たちが直面する世界的な課題に対応する新しいサービスが出現するという効果にも付言しておきます。こうした進歩を後押しすることを楽しみにしています。

■使命とビジネス

既に申し上げたとおり、フェイスブックはもともと、会社を作るために始めたサービスではありません。私たちは常に、ソーシャルな使命や創出したサービス、利用者を最優先に考えています。これは通常の株式公開会社の採る手法とは異なっており、なぜそれがうまくいくと考えているかを説明します。

私は最初のフェイスブックを自分自身で作りはじめましたが、それは自分が欲しいものだったからです。それ以来、フェイスブックに取り込んだアイデアやコードは、私たちのチームに集った優秀な人材から生まれています。

多くの優秀な人は、素晴らしい物事を組み立てたりその一部になることに主眼を置きますが、一方で収益を上げることにも興味を持つものです。チームを作ったり、開発者のコミュニティーや広告市場や投資家の基盤を作ったりする過程において、経済的な強い推進力を備えた成長企業を作ることが、多くの人にとって重要な問題を解決するうえで最良の方法だということを学びました。

簡単に申し上げるなら、私たちは金もうけのためにサービスを作っているのではなく、よいサービスを作るために収益を上げているのです。

そしてこうした方法が、もの作りに役立つということも知りました。最近は多くの人が、単なる収益極大化にとどまらない目標を掲げる企業のサービスを好んでいるように思います。

我々の使命と優れたサービスの創造に焦点を合わせることで、私たちは長期的に株主価値を最大化できると考えています。このことで今度は私たちも最良の人材を集め、素晴らしいサービスを作ることができるはずです。朝一番に金もうけを考えるのではなく、使命を達成するためには強く価値のある会社を作ることが最良の方法だと考えています。

私たちはIPOについても同じように考えています。我々は従業員と投資家のために、株式を公開します。私たちが従業員や投資家に株式を譲渡した時、価値があり、流動性があるものにするために懸命に努力することを約束しました。そしてこのIPOは、私たちの約束を実現させるものとなります。上場企業となったとき、新しい投資家に同じような約束をし、それを実現するために、これまでと同じように懸命に努力します。

■ハッカーウエー

強い会社を作る一環として、私たちはフェイスブックを、優秀な人材が世界に大きなインパクトを与え、他の優秀な人材から学ぶための最良の場所にしようと懸命に努力しています。私たちは「ハッカーウエー」と呼ぶ独自の文化と経営手法を育んできました。

 「ハッカー」という言葉はメディアでは、コンピューターに侵入する人びととして不当に否定的な意味でとらえられています。しかし本当は、ハッキングは単に何かを素早く作ったり、可能な範囲を試したりといった意味しかありません。他の多くのことと同様に、よい意味でも悪い意味でも使われますが、これまでに私が会ったハッカーの圧倒的多数は、世界に前向きなインパクトを与えたいと考えている、理想主義者でした。

ハッカーウエーとは、継続的な改善や繰り返しに近づくための方法なのです。ハッカーは常に改善が可能で、あらゆるものは未完成だと考えています。彼らはしばしば、「不可能だ」と言って現状に満足している人びとの壁に阻まれますが、それでも問題があればそれを直したいと考えるものなのです。

ハッカーは長期にわたって最良とされるサービスを作るために、一度にすべてを完成させるのではなく、サービスを機敏に世に出し学びながら改良することを繰り返します。こうした考え方に基づき、私たちはフェイスブックを試すことができる何千通りもの仕組みを作りました。壁には「素早い実行は完璧に勝る」と書き記し、このことを肝に銘じています。

ハッキングはまた、本質的に自ら手を動かし続けることを意味します。何日もかけて「新しいアイデアは実現可能か」「最良の方法は何か」を議論するよりも、ハッカーはまず試作品を作り、どうなるかを観察します。フェイスブックのオフィスでは「コードは議論に勝る」というハッカーのマントラ(呪文)をしょっちゅう耳にするはずです。

ハッカーの文化は、非常にオープンで実力主義重視です。ハッカーは、最も優れたアイデアやその実行が、常に勝つべきだと考えています。陳情がうまかったり、多くの人を管理している人ではありません。

この方法を促進するために、数カ月に一度「ハッカソン」を開催しており、そこではだれもが自分の持っている新しいアイデアを試作品にすることができるのです。最後に全員で集まり、そこで作ったものを見ています。当社でうまくいった製品の多くはハッカソンから生まれたもので、タイムライン、チャット、ビデオ、モバイル機器向けの開発フレームワーク、ヒップホップコンプライアーなど重要なインフラがここに含まれます。

すべての技術者がこの手法を共有するため、新たに入社した技術者には――旧職がコードを書くことではないマネジャーだったとしても――、私たちのコードベースやツールや手法を学ぶために「ブートキャンプ」に参加することを義務付けています。業界には技術者を管理し自らはコードを書かない人が多くいますが、私たちが求めている自ら手を動かすタイプの人びとはブートキャンプに喜んで参加しています。

上記の例はすべて技術者に関係するものですが、これらの原則から5つの核となる価値を抽出し、経営に活用しています。

インパクトに焦点を当てる

もし最大のインパクトを与えたいと考えるのなら、最良の方法は最も重要な問題の解決に焦点を合わせることです。簡単に聞こえますが、多くの会社はこのことをおろそかにして時間を無駄にしています。私たちはフェイスブックのすべての人びとが、取り組むべき最も大きい問題を見つけるのにたけていることを期待しています。

速く動く

速く動くことでより多くのものを作り、速く学べます。しかし多くの企業は大きくなると、速度低下による機会損失よりも失敗をより恐れ、スピードを落としてしまいます。私たちは「速く動いて失敗せよ」と言っています。もしも速く動かなければ、失敗することがないからです。

大胆であれ

素晴らしいことをなし遂げるためには、リスクをとる必要があります。これは恐ろしいことで、多くの企業は本来やるべき大胆な選択を避けます。しかし世界の変化スピードは速く、リスクをとらなければ失敗が待ち受けています。こういう言い方もしています。「最大のリスクは、リスクをとらないことだ」と。私たちは皆に、大胆な決断をするように促しています。

オープンであれ

より多くの情報があればよい選択ができ、大きなインパクトを与えられます。だからこそ私たちは、オープンな世界はよりよい世界だと考えています。このことは私たちの会社の経営にも当てはまります。私たちはここで働くだれもが会社に関する可能な限り多くの情報に触れ、よい決断ができるように心がけています。

ソーシャルバリューを作れ

再度申し上げますが、フェイスブックは世界をよりオープンにして人びとの結びつきを強めるために存在しており、単に会社を作ることが目的ではありません。私たちはフェイスブックの全員が、日々の活動を通じて世界に本当の価値を提供することを期待しています。

この手紙を読んでくださってありがとうございます。この過程を通じて、私たちは世界に重要なインパクトを与え、永続する企業を作る機会が与えられていると信じています。一緒に素晴らしいものを作れることを楽しみにしています。

日本経済新聞HP 『企業文化は「ハッカーウエー」、速く・大胆に・オープンであれ
フェイスブック上場へ、ザッカーバーグCEO「株主への手紙』よりhttp://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0200P_S2A200C1000000/

まとめ

今回はフェイスブックの創始者・創業者のマークザッカーバーグと妻のプリシラ・チャン氏によるフェイスブック株の99%=450億ドル(5.5兆円相当)の寄付とそれに対する世間の反応についてまとめています。

  • マークザッカーバーグ氏と妻のプリシラ・チャン氏の寄付と娘へのメッセージ
  • 寄付と娘へのメッセージに対する世間の反応
  • 起業家が実現したいものとマークザッカーバーグの考え

についてまとめています。起業家は、自分の考えるビジョンを実現するために大きなリスクを省みず社会や顧客の課題解決に挑む人達です。寄付を単なる節税目的ではなく、意味のある行為として捉えたいものです。

起業を志す全ての人に有用な記事になれば幸いです。


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